「経営者の考えがスタッフに伝わらない」「上司と部下のフィードバックがうまく機能しない」。事務所が成長するほど、こうした組織運営の悩みは避けて通れない課題となる。
EMPグループ代表のあべき光司氏は、システムエンジニアと税理士双方の経験をもとに、「社長の頭の中を、組織のOSにする」思考承継型AIエージェント「EOS」を開発した。AIフィードバック、コミットメントシート、評価会議などの機能を通じて、組織のマネジメント構造はどう変わるのか。実際に使用したベンチャーサポート税理士法人の経営企画室長・坪井の感想も交え、TAX CONNECTIONの税理士・古尾谷が取材した。

- EMPグループ 代表 あべき 光司 氏
目次
事務所業務から離れ事業拡大を目指す「オーナー士業® 超実践講座」
はじめに、EMPグループの体制や取り組みについてお話を伺います。開業されたのはいつ頃でしょうか。
あべき:2016年の3月です。
2025年に代表を退任され、現在はどのような形でグループ経営に携わっていますか。
あべき:当グループは実質的なホールディングス体制をとっており、複数の会社を展開しているため、私自身が経営に関わる会社もあれば、新代表の齊木や弟に任せている会社もあります。現在は現場から離れてオーナー業に回り、主にグループ企業や子会社の所長の育成に取り組んでいます。
また、「オーナー士業® 超実践講座」の運営にも携わっています。同講座では手続き業務(独占業務)の対応・管理をスタッフや外注に委託することで経営者自身の事務所業務を減らし、真にやりたいことで事業を拡大するノウハウを伝えています。
受講者人数や、参加されている方々の特徴を教えてください。
あべき:定員40名のうち約半数を税理士が占めていますが、社会保険労務士や行政書士をはじめとした他士業のほか、一般企業の方も参加されています。
繰り返し受講される方もいるのでしょうか。
あべき:はい。一度受講された方は無料で再受講できる仕組みです。復習を兼ねて再度参加される方や、コミュニティでの交流を楽しみに来られる方も多いです。

会計業務で利用者の成長を支える就労支援事業
他にはどのような事業を展開されていますか。
あべき:障害者の方々を対象とした就労支援事業をグループで5社運営しています。今期売上約11億円のうち6割強を就労支援事業が占めています。補助金等も含めた数字ですが、国民健康保険団体連合会からの給付費が売上の大部分を占めており、安定した事業基盤となっています。
障害者の方々の就労支援事業を始めたきっかけを教えてください。
あべき:顧問先との雑談が最初のきっかけです。一般的に事業化が難しいと思われがちな障害福祉サービスにおいて、その顧問先では安定した経営を実現していました。ビジネスモデルを伺う中で、大きな社会的意義を感じると同時に、会計事務所だからこそうまく展開できるのではないかと考え、2021年10月に大阪で株式会社シーキューブを設立しました。
もう1つの決め手は、身近にいた家族の存在でした。それまで意欲的に働いていた家族が、あるとき心身の不調から、これまで通りに働くことが難しい時期を経験しました。生活の支援だけでなく、その人らしく力を発揮できる場が必要だと感じ、就労支援事業の代表を任せることにしました。現在は経営者として活躍しています。
利用者の方々はどのような業務を担当されているのでしょうか。
あべき:会計ソフトへの入力作業を、あえて担当していただいています。以前はスキャン自動化ツールを活用していましたが、領収書の仕分け作業が残るためコスト削減には繋がりませんでした。そこで、仕訳入力から試算表レベルまでの会計業務を担っていただく形に切り替え、手入力の工程を残しました。
AI化が進む現代においても、紙の領収書や書類をそのまま持参される顧問先は依然として多く、こうした対応は今後もなくならないと考えています。顧問先にとっては書類をそのまま渡せる利便性があり、利用者の方々にとっては貴重な実務トレーニングの機会となります。業務の幅が広がることでやりがいが生まれ、会計知識を身につけることで、一般企業へ就職する事例も増えています。
新しい経営管理プラットフォーム「EOS」開発の背景
ここからは「EOS」についてお話を伺います。まずコンセプトについて教えてください。
あべき:EOSは「Empower Operating System(エンパワー・オペレーティング・システム)」の略で、「Empower」が権限委譲を意味する通り、「社長の頭の中を、組織のOSにする」というコンセプトを掲げた思考承継型のAIエージェントです。社内では「EMPのOS」とも呼んでいます。
優秀な経営者ほど頭の中に明確なビジョンを持っていながら、それが組織に伝わっていないケースがほとんどです。OSのないコンピューターがまともに動かないように、組織もOSがなければ経営者の思想通りには動きません。システムエンジニアから税理士へとキャリアを重ねる中で得たその気づきを基に、「組織が自然と自走していくための仕組み」として開発しました。
現在の契約状況と料金プランを教えてください。
あべき:4月のリリースから約1ヶ月弱で、約50社にご契約いただいています。料金は従量課金制で、10名規模の事務所を例にとると、プレミアムが月額約10万円、スタンダードが約7万円、シンプルが約4万円の3つのプランをご用意しています。なお、ご契約後の2ヶ月間はお試し期間として無料でご利用いただけます。新規のご契約はご紹介が中心で、EMPグループが主催するセミナーや勉強会、既存のお客様からの口コミで広がっています。
現在は主に税理士や社会保険労務士、司法書士などの士業事務所を中心ですが、「社長の思想を組織に浸透させたい」という課題があれば、業種を問わず導入できるシステムです。
EOSの開発に踏み切ったきっかけを教えてください。
あべき:1点目は組織の拡大により、スタッフへ私の思いが伝わりにくくなったことです。拠点が1ヶ所だった頃は、定期的な1on1ミーティングや日常的なコミュニケーションを通じて、互いの考えを双方向で把握できていました。しかし、ここ2〜3年でM&Aが進むと、異なる文化や背景を持つメンバーが急増し、組織の階層化によってビジョンの浸透が難しくなりました。さらに私自身のマネージャー教育が十分でなかったこともあり、マネージャー陣も実務に追われ、本来大切な部下の育成や目標管理が後回しになっていきました。
その結果、従来の目標管理やフィードバックの仕組みも機能しなくなり、スタッフの悩みや目指したい方向性が見えづらくなってしまいました。
他にはどのようなきっかけがあったのでしょうか。
あべき:2点目は、従業員が20名を超える規模になった段階で、既存の業務管理システムでは組織のマネジメントに対応しきれないと以前から感じていたことです。私自身、エンジニア時代にデータベースを専門としていた経験から、開発現場の実情も把握しています。当社規模で業務管理システムを外注すると、4〜5,000万円の予算と半年の開発期間をかけても、納品されるのは自分が想像していた水準の7割程度。結局は改修を繰り返すことになり、自分のイメージするシステムにたどり着くまでに、15年ほどかかります。
これを今から自社で進めるのは現実的ではないと感じていた時に、今年1月に出会ったのが、「バイブコーディング」という新たな開発手法でした。細かなコードを自ら書くのではなく、AIツールと対話しながらシステムを構築していく開発手法です。当初は半信半疑でしたが、試してみると非常にスムーズに開発が進み、本格的な自社開発へ踏み切ることができました。その結果、通常であれば約10人のエンジニアが1年近くかけて開発するような規模(ソースコード30万行・ファイル数1,200・データベーステーブル数100)のシステムが驚異的な速さで完成しました。
ほかにEOS開発を後押しした要因はあったのでしょうか。
あべき:代表を譲って自身の時間ができたことも、開発を後押ししました。長年の課題だった組織運営の問題に対して解決策が見えてきたことに加え、「オーナー士業® 超実践講座」で伝えてきた目標達成・会議運営・360度評価運用のノウハウを、自社で実践しきれていなかった課題意識もありました。
しかしEOSならそれが実現できると確信し、同じ課題を抱える受講生や他の事務所の皆様にも必ず役立つと考えました。多くの事務所では、技術スキルやセキュリティの壁からAI活用が社内ツールに留まりがちですが、弊社にはシステム開発のノウハウがあります。これを活かせば外部展開や収益化も可能だと確信し、本格的な開発をスタートさせました。
コミュニケーションの摩擦を減らす「3者間即時提示構造」
「EOS」は、組織運営においてどのような役割を果たすシステムでしょうか。
あべき:経営者の思考を学習したAIが上司と部下の間に入ることで、コミュニケーションの摩擦を減らし、報告・フィードバック・フォローのプロセスを最適化するシステムです。一般的に、上司は視座が高い分、部下の日報・月報などの報告書に対して「ここが足りない」と感じがちですが、それをそのまま伝えると部下のモチベーションを下げてしまう恐れがあります。そのため上司が本来10伝えたいところを3に抑えても、部下にはそれすら厳しく映り、すれ違いが生じます。
上司からの指摘は、素直に聞けないことがありますよね。
あべき:まさにそこが人間同士でフィードバックを行う大きなデメリットで、どれだけ指摘が正しくても「誰に言われたか」による感情的な抵抗が入ってしまいます。
EOSの「AIフィードバック」機能は、この課題を解決します。部下が日報・月報を提出すると、AIが客観的なデータと経営者の基準に沿って分析コメントを自動生成し、フィードバックを提供します。これにより、部下は上司への感情的な反発・指摘への抵抗感を抱くことなく、アドバイスを素直に受け入れられるようになります。
特許を申請中だとお聞きしましたが、他のAIツールとどこが違うのでしょうか。
あべき:一般的なAIツールは、上司がAIのアシストを受けながら返信する仕組みのため、部下には結局「上司からの指摘」として届いてしまいます。これでは「誰に言われたか」という感情の壁を越えられません。
対してEOSは、部下・AI・上司の役割分担を明確化し、「3者間即時提示構造」を取り入れることで、従来のフィードバックの仕組みそのものを根本から変えています。部下が報告書を提出すると、上司の操作を待つことなく、AIが即時に第三者として改善点やフィードバックを届けます。耳の痛い内容であっても、AI相手であれば部下は冷静に受け止めやすく、記憶が新鮮なうちに改善に取り組めます。
一方で上司は、AIのフィードバックに対するGood/Badの品質判定や、独自視点で補足コメントの追加を行う「フォロー役」に回ります。AIが客観的な分析を担い、上司は人にしかできない寄り添いに集中できるため、フィードバックの質・量・スピードのすべてが向上します。この構造こそが、今回の特許で押さえた最大のポイントです。
社員全員にコンサルタントがついているようなイメージですね。
あべき:おっしゃる通りです。大企業で幹部会議に入ったコンサルタントが、社長の代わりに言いにくい正論を伝えるイメージに近いかもしれません。EOSでは、その第三者的な役割をAIが担います。上司は言いにくいことを自ら伝える精神的負担から解放され、組織のコミュニケーションも円滑になります。
経営方針がまだ定まっていない段階でも、「EOS」は使えるのでしょうか。
あべき:経営方針や事業計画がまだ固まっていない事務所や、「理念や評価基準が従業員に浸透していない」と感じている事務所にこそ、ぜひ使っていただきたいです。多くの会社では、事業計画や役職ごとの役割が言語化されておらず、社員に伝わっていないのが現実です。
100点の状態でなくても、まずは「10点スタート」で構いません。始めはAIのフィードバックが方針とズレることもありますが、上司が修正や補足を加えていくことで、曖昧だった経営者の考えが自然と整理され、言語化されていきます。事業計画はEOS内でAIが半自動的に生成するため、言語化すればするほどフィードバックの精度も高まります。
組織の自走化を最大化する3機能サイクル
「EOS」の具体的な機能を教えてください。
あべき:まず「日報・月報(AIフィードバック付き振り返り)」機能についてご紹介します。スタッフが日報・月報に書く内容は日々の業務報告と学びが中心ですが、提出すると、AIが役職に応じた期待職能、経営計画の方針、年間目標、会社のバリューなどすべてを照らし合わせた上で、スコアと改善点を自動でフィードバックします。具体的にどこができていて、どこが不足しているのかを多角的な視点から提示する仕組みです。
役職ごとの評価基準もシステムに組み込まれているのですね。
あべき:現在の役職だけでなく、段階上の役職からも採点を行うことができます。例えばシニアマネージャーであれば、ゼネラルマネージャーの基準で見た現状の得点や不足要素まで提示されます。これにより、部下は昇格に向けた必須要件や自らの課題を客観的に把握できます。一方で上司は、AIのフィードバックを確認し、フォローのコメントを添えるだけです。
他にフィードバックの精度を高める機能はありますか。
あべき:「LABプロファイル®分析」機能を展開しています。これはスタッフの行動特性を科学的に分析し、一人ひとりに最適な伝え方を提案する仕組みです。例えば、成果達成やデータを重視するタイプの上司に対し、体験や実感を大切にするタイプの部下がいたとします。その場合、上司が論理的なアプローチをしても、部下には伝わりにくいといった具体的な分析が提示されます。
スタッフの特性を、様々な角度から理解できる機能が充実していますね。
あべき:はい。なかでも「360度フィードバック」機能は、人事考課のような役割を担います。社員がバリューをどれだけ実践しているかを、周囲のメンバーが匿名で評価します。全員が評価し合うのではなく、一部のメンバーのみが対象となる設計で、高い匿名性を担保しているのが特徴です。
評価の目的はスコアを出すことではなく、自社のバリューを各自が意識し、意味を深く考える機会をつくることです。自己評価と周囲の評価を照らし合わせることで、「自分はできていると思っているのに周囲からはそう見られていない」というギャップが可視化され、1on1での具体的な対話に繋げることができます。
「EOS」を最大限に活用するには、どのような使い方が理想でしょうか。
あべき:「コミットメントシート」「月次報告・承認フロー」「評価会議」の3機能を連動させ、年間を通じてサイクルを回し続けることが理想です。
まず、「コミットメントシート」機能による個人目標の入力・経営計画との連動を行うことで、AIが期待職能に基づき方針と行動のズレを自動検出。「今期何をするか」を明確に言語化できます。その振り返りを「月次報告・承認フロー」で毎月積み上げ、半期末に行う1対1の「評価会議」へと繋ぎます。評価会議では、16ブロックマトリクスによる構造化評価や1年間の蓄積データをもとに、AIが客観的なフィードバックを生成します。
この3つの機能が連動して初めて、人が育っていく構造が完成します。EOSを使っていただければ、社長が毎日言葉で伝え続けなくても、組織が自走し始める瞬間が必ず来ます。その瞬間を、一緒に作っていきたいと思っています。

AIと人が共創する次世代マネジメント
実際に「EOS」を使用した坪井さんにお話を伺います。感想を聞かせてください。
坪井:「月次報告・承認フロー」の「AIフィードバック」機能を中心に使用しました。「思考承継型AIエージェント」という言葉の通り、まずは経営者の思考を、システムに埋め込むことが重要だと感じました。
初期設定から本格的に使いこなすまでには一定の期間を要しますが、企業理念に基づいた日報へのフィードバック機能の利便性は、導入から1週間程度で十分に体感できました。
実際に使用されて、どのような印象を受けましたか。
坪井:最初はAIがすべてを判断するシステムだと思っていましたが、認識が変わりました。EOSはあくまでスタッフの業務量などの評価材料を蓄積・提供・整理するものであり、人間関係の課題をAIが補完しながら、最終判断は人に委ねる設計です。
「AIに任せきりになるのでは」と敬遠している方にこそ、ぜひ触れていただきたいと感じました。
あべき:「AIが決定する時代は来ない、でもAIで決定の質は劇的に上げられる」。それがEOSの根底にある考え方です。スタッフの昇進・昇給の最終判断は経営者や幹部が行うべきものです。しかし、その判断がなんとなくの好き嫌いや最近の印象だけで下されてしまうケースは少なくありません。
EOSが実現しようとしているのは、1年間蓄積されたデータをもとに、AIが社員一人ひとりの成長した点やまだ伸び代のある点を、客観的な根拠とともに経営者へ提示することです。

「EOS」の今後の展望を教えてください。
あべき:2026年4月のプレスリリースを機に、他メディアからも取材依頼をいただいており、現在は認知の拡大に注力しています。事業展開も順調に進んでおり、5月までのお試し期間を経て本格的な有料化がスタートします。お試しから有料版への移行率を約3割と想定しており、まずは月額約300万円の売上を見込んでいます。
今後はシステムの改良を重ねながら、5年後の1,000社・1万人への導入を目指しています。
会計事務所との連携も考えているのでしょうか。
あべき:今後は、一緒にEOSを育てていただけるパートナー企業様を増やしていきたいと考えています。弊社では、すでに代理店制度を設けています。これは、実際に使用して利便性を実感した企業様がパートナーとして登録し、クライアントへの導入を支援する仕組みです。
主に会計事務所を想定しており、サポートをしていただく代わりに、月額利用料の70%を手数料としてお支払いしています。経営者にとって、税理士はもともと強い信頼関係がある存在です。だからこそ、単なるシステムサポートにとどまらず、パートナーとして伴走できる体制が築けるはずです。初期セットアップも会計事務所側で担っていただくことで、品質の高い導入支援をより多くの事務所に届けられると考えています。
組織運営に役立つ、大変新しいシステムだと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。
参加者プロフィール
- あべき 光司 氏
- EMPグループ 代表
大手システム会社でデータベース専門のシステムエンジニアとしてキャリアをスタートし、ITコンサルタントとして多くの経営者サポートに従事。「中小企業の最も身近な相談相手でありたい」という強い想いから税理士へ転身し、2016年3月に独立。「力を与える人、職業」を意味するEMPグループの代表として多角的な事業展開でグループを拡大し、税務・経営支援にとどまらず、障害者就労支援事業や「オーナー士業® 超実践講座」の運営など幅広い形で士業・経営者の成長に貢献している。現在は思考承継型AIエージェント「EOS」の開発・提供を推進している。 - 坪井 伸樹
- ベンチャーサポート税理士法人 経営企画室 室長
「EOS」の実際のユーザーとして月次報告・承認フローのAIフィードバック機能を中心に検証。
企業情報
- 項目
- 詳細
- 企業名
- EMPグループ
- 事業内容
- 税務・経営支援、障害者就労支援事業(グループ5社)、「オーナー士業® 超実践講座」の運営、思考承継型AIエージェント「EOS」の開発・提供
- サービス対象
- 士業事務所・一般企業(EOS)、障害をお持ちの方(就労支援)、独立・事業拡大を目指す士業(超実践講座)















