2026年6月15日、東京・六本木の「BAR LOUNGE D3」で、「税理士業界AI座談会:税理士業務は、本当に“なくなる”のか?」と題した座談会が開催されました(主催:TAX CONNECTION)。
AIをどう武器にし、顧問料モデルをどう再構築していくべきか——現場の最前線に立つ3氏が、実務ベースの視点で本音を語った座談会の模様をレポートします。
目次
AI活用で組織を牽引する税理士が提言する会計事務所のAI活用とこれからの価値
税理士業界において、AIの活用はもはや一部の先進的な事務所だけのテーマではなくなりつつあります。記帳、資料作成、経営支援など、会計事務所のあらゆる業務面でAIの活用が行われています。
一方で、「AIによって税理士業務はなくなるのか」「どの業務からAIに置き換わっていくのか」「会計事務所はどのように収益モデルを変えていくべきなのか」といった不安や課題を抱える事務所も少なくありません。
そこで今回は、AI活用に積極的に取り組むセブンセンス税理士法人の大野修平先生、sankyodo税理士法人の朝倉歩氏、sankyodoコンサルティングの宮川大介氏を迎え、AI時代における税理士業務の変化と、会計事務所がこれから取るべき方向性について6/15(月)にsankyodo税理士法人の朝倉先生が経営するバー「D3」にて座談会を行いました。
AI活用は周辺業務から、高度専門業務まで広がる
座談会では、AIの活用が議事録作成やメール文面の作成といった周辺業務にとどまらず、より専門性の高い業務にも広がり始めていることが紹介されました。
セブンセンス税理士法人の大野修平先生からは、DD(デューデリジェンス)やバリュエーション(企業価値評価)の業務においても、AIを活用しているという話がありました。
DDやバリュエーションは、企業の財務状況、事業リスク、将来性、収益力などを多角的に分析する必要があり、高度な専門知識と実務経験が求められる領域です。AIを使うことで、資料の読み込み、情報整理、論点の抽出、比較資料の作成、初期的な分析の補助などを効率化できる可能性があります。
もちろん、企業価値の最終的な判断や、リスクの見極め、クライアントへの提案については、専門家による確認と判断が欠かせません。しかし、AIを活用することで、専門家がより本質的な検討や意思決定支援に時間を使えるようになる点は、大きな変化といえます。
AI活用の土台は「情報の集約」にある
sankyodo税理士法人の朝倉歩氏からは、AI活用を進めるうえで、まず重要になるのは社内情報の集約であるという話がありました。
同法人では、Google Workspaceに情報を集約し、業務に関するデータを組織として活用できる状態を整えているといいます。
AIは、単体で導入すればすぐに成果が出るものではありません。社内に蓄積された資料、ナレッジ、顧客対応履歴、業務フロー、過去の判断事例などが分散している状態では、AIを十分に活用することは難しくなります。
逆に、情報が一元管理され、必要なデータにアクセスしやすい状態が整っていれば、AIは単なる文章作成ツールにとどまらず、業務改善や意思決定を支援する存在になり得ます。

朝倉氏の話からは、AI時代の会計事務所にとって大切なのは、目新しいツールを導入することだけではなく、日々の業務データをどのように蓄積し、組織の資産として活用していくかであることがうかがえました。
顧問料モデルは「作業代行」から「価値提供」へ
AIの普及によって、会計事務所の収益モデルも変化していく可能性があります。
これまでの顧問料は、記帳代行、月次処理、申告書作成といった作業量を前提に設計されてきた面があります。しかし、AIやクラウド会計の活用によって作業時間が短縮されれば、単純な作業代行に対する価格競争はさらに厳しくなることが予想されます。
一方で、AIによって生まれた時間を、顧客への提案、経営支援、資金繰り支援、事業承継、相続対策、業務改善支援などに振り向けることができれば、会計事務所の提供価値はむしろ高まります。
座談会では、AIを使って業務を効率化するだけでなく、その先に「何の価値を提供するのか」を明確にすることが重要だという意見が交わされました。
AIによって作業時間が短くなったから顧問料を下げるのではなく、効率化によって生まれた余力を高付加価値業務に投下し、顧客にとってより重要な存在になる。この発想が、これからの会計事務所経営に求められるといえます。
税理士顧問はなくならない
AIによって作業時間が短くなったからといって、単純に顧問料を下げる方向に進むべきではありません。顧問料を過度に下げてしまうと、会計事務所側も限られた時間の中で最低限の処理業務をこなすことが中心となり、顧客の状況を丁寧に把握したり、経営者の悩みに寄り添ったりする時間を確保しにくくなります。
また、日々の顧問業務の中で信頼関係を築けていなければ、M&Aや事業承継、保険や不動産といった、より本質的なバックエンドサービスの提案にもつながりにくくなります。
つまり、顧問料は単なる作業代行の対価ではなく、顧客に継続的に向き合い、必要なタイミングで適切な提案を行うための基盤でもあります。AIで生まれた余力を価格の引き下げだけに使うのではなく、顧客への伴走やコンサルティングの質を高める方向に活用することが、これからの会計事務所に求められる視点だといえます。
AIが定型業務を担う時代だからこそ、人間である税理士・会計人には、顧客との信頼関係を築き、意思決定を支えるコンサルティング力がより強く求められるといえます。
まとめ
重要なのは、AIを使うか使わないかではなく、AIによって生まれた時間を何に使うかです。
作業をこなすだけの事務所から、顧客の意思決定を支える事務所へ。
情報を処理するだけの専門家から、経営者や相談者に伴走する専門家へ。
AI時代の税理士業界では、こうした変化に前向きに取り組む事務所こそが、次の時代の成長をつかむのではないでしょうか。
参加者プロフィール
- 朝倉 歩 氏
- sankyodo税理士法人 代表社員 税理士
2016年に現在のsankyodo税理士法人(東京都港区)を設立。最新のITやAIを使ったデジタル戦略を強みとして全国6拠点・職員130名を有する組織に成長。会計事務所業務のデジタル化に力を入れており、sankyodo見学会など業界のDX化を進める活動を行っている。 - 宮川 大介 氏
- sankyodoコンサルティング株式会社 取締役CTO
2009年より都内税理士法人にて中小零細企業から上場会社の税務を担当。システムエンジニアの経験から、生産性向上を目的とした会計・税務システムの導入・業務改善コンサルティングを行う。2026年3月よりsankyodoコンサルティング株式会社取締役CTOに就任。 - 大野 修平 氏
- セブンセンス税理士法人 ディレクター 公認会計士 税理士
東京商船大学卒。大学卒業後、有限責任監査法人トーマツに入所。主に銀行、証券、保険会社の監査に従事。トーマツ退所後、資金調達支援、資本政策策定支援、補助金申請支援などの業務を行い、スタートアップ企業の育成にも注力している。2022年、セブンセンス税理士法人に入社。















