
会計・税務のDXは、単なる効率化の段階を超え、「信頼できるデータ」をいかに積み上げるかというフェーズに入っている。
株式会社TKCは、クラウド会計を基盤に、デジタルシームレス、Peppol対応、月次決算の高度化、金融機関との連携、さらにはAIによる実務支援までを推進してきた。本記事では、なぜ今「改ざんできない会計データ」が求められているのか、そしてそれが企業の信用力や会計事務所の付加価値をどのように進化させるのか。その戦略と展望を詳しく紹介する。

- 右:株式会社TKC 代表取締役 社長 飯塚 真規様
クラウド会計とデジタル化を進める最新施策

クラウド会計の普及や業務の自動化が進む中で、どのような取り組みを進めていますか?
飯塚:TKCは今年で60期を迎えましたが、現在はクラウドへ移行を進めているところです。その中で特に重視しているのが国税庁が推奨する「デジタルシームレス」という概念です。これは、取引先が発行する請求書などの証憑をデジタルデータで受け取り、仕訳を自動計上する仕組みです。そのデータが月次試算表になり、決算書、税務申告書、納税データにまでシームレスに反映されます。
デジタルシームレスの具体的な施策について教えてください。
飯塚:現在、弊社は請求から会計、税務、納税までをデジタルデータで完全に連携させる仕組みを構築しています。また、電子帳簿保存法の改正が明確に規定されたため、国が推進するPeppol(ペポル)などのデジタルインボイスや、APIによる自動連携も順次進める予定です。システム自体はほぼ完成していますが、2027年の制度開始に向けて、必要な修正や整備を全て完了できるように進めています。
【用語解説】
デジタルインボイス:デジタル庁が公開している「我が国におけるデジタルインボイスの標準仕様」(JP PINT)に基づく、XML形式の電子インボイスのこと。
Peppol(Pan European Public Procurement Online):電子化した請求書などの電子文書をネットワーク上でやり取りするための「文書の仕様」「運用ルール」「ネットワーク」に関する世界標準規格。
証憑がデータ化されると、巡回監査もデータ上で行われるようになるのでしょうか?
飯塚:おっしゃる通りです。現在、私どもはクラウド環境を活用した「事前確認」というプロセスを推奨しており、会計事務所にいながら、お客様の証憑や仕訳をチェックできるようになっています。
ただし、その上で関与先企業を訪問し、巡回監査と経営助言を行う仕組みとしています。顧客との密着度を保てなければお客様は離れてしまい、単なる価格競争に陥りかねません。
また、資本的支出なのか固定資産の購入かなど、実物を見なければ判断が難しいケースもあります。関与先で直接確認するのか、写真で判断するのか、金額だけを見るのかで事務所が負うリスクは大きく変わります。だからこそ、企業の現場を巡回監査して経営者としっかり向き合うことが欠かせません。コミュニケーションを重ねることで、結果的に事業承継の支援や他の業務分野への広がりにもつながると考えています。
月次決算と金融連携が高める企業の信用力

TKC会員事務所に向けて、特に推奨されている顧客支援ツールがあれば教えてください。
飯塚:「月次決算速報サービス」というものがあります。月次決算後に変動損益計算書、限界利益率や自己資本比率、指導や助言のコメント等が社長のメールアドレス等へ自動送信されるサービスです。事務所側で巡回監査を行ったうえで業績レポートを配信するため、社長は今日も会計事務所が対応してくれていると実感できます。
社長が業績を確認したいタイミングは月1回とは限りません。売上高や労働分配率、借入金残高など、状況を随時チェックしたい場面も出てきます。必要なときにいつでも確認できる環境を整え、加えて業績レポートもすぐに参照できる仕組みは「自分は常に会計事務所のサポートを受けている」と感じていただけると思います。
主要な経営指標を自動で届けてもらえるのは、安心感がありますね。
飯塚:また、TKCはこれまで以上に金融機関との連携を重要視しています。金融機関は「どの中小企業や会計事務所を信頼すべきか判断しにくい」という状況にあります。こうした状況を踏まえ、弊社では関与先企業からの依頼に応じて電子申告後の決算書や法人税申告書のデータをそのまま金融機関へ電子的に送信できる「TKCモニタリング情報サービス(MIS)」という仕組みを無償で提供しています。これにより、行員が決算書を借りてコピーし、返却するといった手間もなくなります。
現在は日本政策金融公庫さんとも連携を一層強化しています。公庫の方々からは「TKCの決算書の正確性は肌感覚で分かる」と評価をいただいていたため、「肌感覚ではなく、本当に数字で検証しませんか」とご提案しました。
どのような検証を行ったのでしょうか。
飯塚:日本政策金融公庫の国民生活事業が、過去5年間に融資した先で、融資実行から1年以内に破綻懸念先となった割合を調査していただきました。一般的な企業全体の割合を100とすると、TKCの仕組みを通じて決算書が送られている企業では破綻懸念先となる割合が70まで低下し、さらに書面添付がある場合は60、最も条件が整っている場合には30台まで下がるという結果が得られました。この検証結果により、公庫は「TKCの事務所が作成した決算書は信頼できる」という前提で判断してくれるようになりました。
現在では、TKC会員の関与先で一定の条件を満たす企業に対して、最大3,000万円の融資が実行可能か5営業日以内に判断する仕組みが導入されています。
とても早いですね。
飯塚:公庫の平均が20日程度と聞いていますので約4分の1の日数です。実際に運用を開始してからは、平均1.9日で結果が出ているそうで、申し込みから2日後には回答、場合によっては即日というケースもありました。こうした仕組みづくりを支援することで、会計事務所が関与先企業や金融機関から信頼される土台を作っていきたいと考えています。
それは会員事務所の大きな付加価値になりますよね。
飯塚:さらに、月次巡回監査についても共同研究を進めています。TKCの特徴である月次巡回監査は、業界的にはコスト的に見合わないといった話もいただきますが、年10回以上、監査しているかどうかで、金融機関から見た融資先のデフォルト率におよそ倍近い差があるという結果が出ています。これにより、巡回監査のもつ付加価値が改めて評価されている状況です。
我々の次のステップは、こうした実証データをいかに経営者へPRするのかです。PRを通じて会計事務所の報酬水準を高めるための根拠や材料を提供していきたいと考えています。
AI活用とDX推進で進化する実務支援

領収書の取り込みなど、入力作業のデジタル化は今後どのように進んでいきますか?
飯塚:現在、AI-OCRでの読み取りやスマートフォンでの撮影、スキャナーからのアップロードなどはすでに実現しており、相当数利用が進んでいます。一方で、仕訳に添付すべき領収書を半自動的に提示する、といった機能はまだ対応できていないため、今後取り組んでいきたいと考えています。
また、デジタルインボイス対応は今後確実に社会の主流になります。TKCはデジタルインボイス推進協議会(EIPA)と連携して活動しており、その普及促進にはかなり力を入れています。最近では、市町村でも調達にPeppolを採用する動きが出始めており、その地域で活動する企業がPeppolに対応できるよう、支援を進めていきたいと考えています。
領収書やインボイスのデジタル化が進む中で、どのようにAIを活用したいと考えていますか?
飯塚:TKCのAI活用は、大きな枠組みとして「2×2の4つのマトリクス」で構成しています。第一の軸はAIを"どこ"に実装するかで、①TKCシステムにAIを実装する取り組み、②会計事務所が契約するChatGPTやGeminiなどの外部AIとの連携によって、データの送受信を可能にする取り組みがあります。
第二の軸はAIを"誰向け"に使うかで、①お客様向けサービス、②社内での活用の二つに分かれます。これらを組み合わせた四つの領域でAI活用を進めています。
TKCシステムへのAI実装については、弊社が運営する税務データベースの検索機能の強化を進めています。
TKCの膨大なデータベースを生かせば、さらに税務に強いAIが実現できそうです。
飯塚:加えて、10月下旬に提供を開始した「TKCシステムQ&Aチャットボット」という新しいサービスがあります。給与計算や年末調整に関するシステムの操作方法などを質問していただくと、AIチャットボットが回答する仕組みです。AIは誤った回答を生成するリスクがあるので、回答そのものはAIに作らせず、これまで蓄積してきた膨大なQ&Aの中から候補を提示する形式にしています。
その他に、取り組まれているAI活用があれば教えてください。
飯塚:年内の提供開始を目指している取り組みの一つが「議事録」です。会計や税務特有の用語を学習させ、文字起こしの精度を高めた議事録ツールとしてリリースしていく予定です。ChatGPT、Geminiなど、どのAIであっても、事務所側でAPI連携の契約があれば、音声データを送るだけで議事録が作成できます。さらに、事前に議事録の様式を設定しておけば、その形式に沿った要約まで行い、その結果がスマートフォンに届く仕組みを提供します。作成された議事録についても、TKCが提供するチャットやファイルストレージ、上長への報告に使う業務日誌など、どこへ共有するかを選択できる機能も準備しています。
議事録のように実務の負担を減らせる仕組みが整うと、現場の仕事が一段と進めやすくなりますね。
飯塚:さらに、事務所管理と関与先データベースである「OMSクラウド」とAIを連携させる予定です。これは社内では"コンタクト履歴"と呼んでいるのですが、例えば「来週、株式会社ABCの社長と面談するので、直近1年のやり取りをまとめて」とOMSクラウドに依頼すれば、日報や直近の決算データから必要なレポートをすぐに表示できます。
最近はAIで業種分析もできる事業計画書作成ツールが増えていますが、継続MASも経営計画が作りやすくなっているのでしょうか?
飯塚:事務所が作成する事業計画は、経営者からすると他人事になってしまいがちです。今後の展望として、継続MASによる経営計画策定機能の一部をお客様にも公開し、経営者と対話しながら経営計画を作成できるクラウドの仕組みを構築したいと考えています。
経営計画づくりの場面で、AIには今後どのような役割を期待していますか?
飯塚:AIが経営計画策定の全てを担うかという点については、まだ明確ではありません。ただ、経営者が売上予測を立てる際に必要になるのは業種の動向や県の産業動向といったオープンデータです。そうしたデータを見られるようにしたり、仕入れにおける部材単位での需給分析などの情報収集を効率化するためにAIを活用することはできると思います。そのうえで、借入金から逆算をして売上目標を提示したり、同業と比べてコストがかかり過ぎている原因を指摘するなど、ある程度まで踏み込んだ分析をできるようにしたいと考えています。ただし、AIが出すのはあくまでシグナルであり、事務所の方が経営者に問いかけ、対話を深めることで会計事務所の存在価値は高まります。AIの機能だけで全てが完結してしまうと、会計事務所による関与の必要性が薄れ、システムだけで事足りるという判断になってしまいます。
データの信頼性が導くTKCの未来戦略
会計事務所に、よりTKCを活用していただくために、どのような戦略を考えているのでしょうか。
飯塚:会計でも税務でも、これからはデータの信頼性が問われる時代になります。
少し前には「データは次世代の石油」と言われていましたが、本当に価値を持つのは"改ざんされていないデータ"です。TKCシステムは帳簿を遡及改ざんできない仕組みにしています。どの業界でもデータの改ざんは信用を失う重大な行為ですが、会計業界だけはなぜか過去データの改ざんが便利だと言われます。粉飾の増加もあって金融機関からは会計データの信頼性への疑念が強まっています。
一方で、銀行には、融資申請をする事業者から改ざんされた帳簿や決算書が持ち込まれるというケースが増えています。データの時代となってきた今、「信頼できるデータ」を出せる事業者かどうかで社会的な信用性が大きく変わってきます。TKCは、その信頼性を守り抜くことに全力で取り組んでいきます。
データを守るために具体的にどのような取り組みをしていますか?
飯塚:データ入力は、これまでの手作業中心から、データ連携・読み込み・スキャンへ進化しています。こうした機能の充実と、改ざんされない信頼できるデータの運用を組み合わせることで会計帳簿の信頼性が高まり、結果的に事務所や企業を守ることにつながります。まずは、このエコサイクルをより高い水準で回せるよう整備を進めていきたいと考えています。
改ざんできないデータを積み上げていく取り組みは、まさに今の時代に求められるものですね。
飯塚:さらにデジタルシームレスを進めるため、TKCシステムの連携範囲を大きく広げる動きがあります。企業の業務プロセスでは、会計が最後の受け皿です。そこでしっかり信頼性を担保できる仕組みを提供し、その付加価値を訴えていくことが重要だと考えています。
クラウド化やデジタルシームレスが進めば、さらに便利になりそうですね。
飯塚:税務もクラウド化が進み、データはすべてTKCのデータセンターで一元管理しています。動作速度や大量印刷といった処理負荷の高い作業はクライアント側で行いつつ、会計と税務のクラウドデータを一本化して扱えるようにしているところです。
今後は、預貯金利息や配当金などの仕訳から、自動的に別表へ反映できるような仕組みを整え、期中から申告データを作り込んでいけるようにしていきたいと考えています。税額控除など一部の項目は期末残高で判断しなければならないため、完全に自動化することは難しいかもしれません。しかし、申告作業が比較的シンプルな主要別表だけで済む企業であれば、システムを起動した時点で、データがほぼ入力済みの状態にしていきたいと思っています。
会計と税務をここまでシームレスにつなぐ発想は、御社の強みがよく表れていますね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
参加者プロフィール
- 飯塚 真規様
- 株式会社TKC 代表取締役 社長
2002年に株式会社TKCに入社。多岐にわたる事業領域で組織の成長と発展を牽引してきた豊富な経験と実績をもとに、2019年12月より、同社の代表取締役社長へ就任。現在に至る。
企業情報
- 項目
- 詳細
- 企業名
- 株式会社TKC(ティーケーシー)
- 所在地
- 栃木県宇都宮市鶴田町1758番地
- 設立
- 1966年10月22日
- 代表者
- 飯塚 真規
- 事業内容
- 会計事務所、中堅・大企業、地方公共団体、法律専門家・法科大学院向けに会計・情報サービスを提供















