会計事務所におけるAI活用が、「人の仕事を部分的に補助する」段階から、一定の業務をAI自身が判断しながら進める段階へ入りつつある。
ベンチャーサポート税理士法人は、Google Cloudが主催する「第6回 AI エージェント事例アワード」において、ファイナリスト8社のうちの1社に選出された。今回評価されたテーマは、「AIが人に確認依頼する、税理士向け自律型記帳エージェント」。同法人では、AI記帳エージェント「TaxSys」を実際の税務業務に導入し、AIが処理できる部分と、人による専門的な判断が必要な部分を切り分けながら記帳業務の自動化を進めている。
10月29日に開催される「Agentic AI Summit '26 Fall」では、ファイナリスト8社によるピッチコンテストが行われ、最終審査が実施される予定だ。Google Cloudによると、今回の審査では「技術的革新性」「実用性と実現可能性」「社会的・経済的な影響」の3点が評価基準となっている。

目次
AI-OCRの次に来る「自律型」の記帳業務
これまで会計事務所におけるAI活用というと、AI-OCRによる領収書や請求書の読み取りや、仕訳候補の自動生成など、人が行う業務を補助する仕組みが中心だった。
一方、今回ベンチャーサポート税理士法人が進めているのは、AIが単に候補を提示するだけではない。証憑の内容を読み取り、仕訳候補を生成したうえで、AI自身がその処理結果の信頼度を評価する。一定以上の確度で処理できるものはAI側で進め、判断が難しいものについては人に確認を求める。
つまり、
すべてを人が確認する
↓
AIが処理し、難しいものだけ人が確認する
という業務フローへの転換を目指している。
これは、従来型の「AIによる業務支援」と、自律的に業務を進める「AIエージェント」との大きな違いの一つと言える。
1社90分から10分へ 月間16,800時間を削減
ベンチャーサポート税理士法人が所属するVSGは、グループ全体で約1,700名の従業員を抱える。2026年8月時点で、TaxSysの運用規模は対象顧客約14,000社、月間約30万枚の証憑、約150万件の仕訳に達している。
同法人によると、1社あたりの記帳処理時間は、導入前の約90分から約10分まで短縮され、月間では約16,800時間の削減につながっているという。
重要なのは、単なる実証実験ではなく、実際の税務現場で継続運用されていることだ。AI技術は新しいサービスや機能が次々と登場する一方、会計事務所では「実務に組み込めるか」「スタッフが使い続けられるか」が大きな壁になる。今回の事例は、その壁を越え、大規模な組織で実運用まで進んでいる点が特徴となっている。
「全部AIに任せる」のではなく、人が判断すべき仕事を絞る
AI導入というと、「将来的に人の仕事がなくなるのではないか」という議論になりがちだ。しかし今回の取り組みは、むしろ人がやるべき仕事を明確にする方向に近い。
AIで判断しやすい定型的な記帳業務を自動化する一方、
- 判断に迷う取引
- 税務上の専門的な検討
- 顧客への確認
- 経営に関する相談や提案
などは人が担当する。
ベンチャーサポート税理士法人の五味孝文氏も、「AIに任せられる業務がある一方で、お客様との対話や専門的な判断、経営に関する提案など、人だからこそ提供できる価値がある」としている。
単純な入力作業を減らすことで、スタッフがより専門性の高い業務や顧客対応へ時間を振り向けることが、同法人のAI活用の狙いだという。
AI導入で重要になる「現場からのフィードバック」
もう一つ注目したいのが、システムを一度開発して終わりにしていない点だ。実際の税務現場では、
- 「この形式の証憑は処理しにくい」
- 「この取引はAIでは判断しづらい」
- 「この機能があればさらに効率化できる」
といった問題が日々発生する。
同法人では、そうした現場の声を集め、TaxSysの開発・改善を支援する株式会社SoLaboと共有しながら、継続的な改善を進めている。
AI導入を成功させるうえでは、高性能なAIを導入すること以上に、現場の業務フローに合わせて改善を続けられる仕組みをつくることが重要になりそうだ。
会計事務所のAI活用は次の段階へ
Google Cloudは今回から、従来の「生成 AI 事例アワード」を「AI エージェント事例アワード」へ名称変更した。背景には、生成AIの活用が、質問への回答や文章作成といった利用から、AI自身が業務を計画・実行する「エージェント型」へ進んでいることがある。
会計業界においても、
AI-OCR
↓
仕訳候補の生成
↓
業務プロセスの自動化
↓
AIエージェントによる自律処理
という流れは、今後さらに進んでいく可能性がある。
一方で、税務には専門的な判断が必要な場面も多い。そのため、今後の会計事務所のAI活用では、「何をAIに任せるか」だけではなく、「どこから人が判断するのか」を設計することが重要になってくる。
10月29日の最終審査では、ベンチャーサポート税理士法人の五味孝文氏と、株式会社SoLabo代表取締役の田原広一氏が登壇。実際の税務現場でAIエージェントをどのように運用しているのか、その事例を5分間のピッチで紹介する予定となっている。















