令和の会計業界人材争奪戦線 ー採用成功事例に学ぶ税理士事務所の未来ー

どう採り、どう惹きつけ、どう辞めさせないか?
税理士法人3社と人材紹介のプロが語る“本気の採用・定着戦略”。

  • 左から 税理士法人KMCパートナーズ 所長・代表社員 木村 智行 様
  • 税理士法人リライト 総代表社員 大平 耕介 様
  • ARK税理士法人 代表税理士 橋場 和弥 様
  • 株式会社ヒュープロ 人材紹介事業部 士業ブロックマネージャー 森屋 翔平 様

古尾谷:今回は「令和の会計業界人材争奪戦 ー採用成功事例に学ぶ税理士事務所の未来ー」というテーマでお話を伺いたいと思います。まずは皆様の自己紹介をお願いします。

木村様(以下木村)税理士法人KMCパートナーズの代表社員を務めております木村と申します。弊法人は、父が創業した個人事務所を前身とし、この7月で創業55年目を迎えました。私自身は令和3年1月に代表に就任し、私の入社当時24名だったスタッフも現在は正社員46名、パート・アルバイト10名を含む56名体制となっております。ここ数年で人員拡充を進め、1年半前には渋谷の新築ビル「渋谷サクラステージ」へオフィスを移転。広さ130坪のオープンな執務環境で、さらなる業容拡大を目指しています。業務エリアは東京・神奈川・千葉・埼玉を中心に、訪問型・出社型・付加価値型の顧問業務を展開し、報酬水準もやや高めに設定しています。また、特に中小企業のM&A支援にも力を入れており、日本M&Aセンター主催の表彰では、MVPや最多成約賞などを3年連続で受賞いたしました。昨年のリブランディング及びホームページ刷新を機に、採用活動も徐々に成果が出始めており、2025年に新たに採用が決まった人数が10人で、そのうち2026年新卒人数は5名です。

大平様(以下大平)税理士法人リライト代表の大平と申します。当法人では10年ごとに代表を交代する方針を採っており、私は2代目として就任し、今年で5年目になります。就任当初約50名だった社員数は現在115名に増加し、7月には福岡支店の開設を予定しております。年商1~5億円規模の中堅層を主な対象とし、高度税務には対応せず、各メンバーの専門分野に特化した体制で支援を行っています。採用面では毎年15名以上を目安に即戦力重視の採用を進めており、新卒は将来性を見て慎重に選考しています。

橋場様(以下橋場)ARK税理士法人の橋場と申します。今年3月に開業し、2024年3月で3周年を迎え、現在は税理士法人51名、社労士法人5名、行政書士法人1名の計3士業によるグループ体制を構築しています。2024年3月からの1年間で20名以上を増員し、2026年3月時点には75名体制を目指しています。毎年140〜150%の成長率を目標に掲げ、長期的には開業12年で税理士法人単体で700名体制、顧問契約数1万社を視野に入れています。事業としては、顧問先の業種や業態には特化せず、上場準備中または上場企業を除き、幅広く対応しています。成長の原動力は、ご紹介を通じた新規顧客の拡大であり、特に丁寧なコミュニケーションを重視した関係構築に力を入れています。

古尾谷:採用無くして成長なし、本日は皆さんの人材採用の秘訣について色々教えてください。

採用で使用している媒体・エージェントについて

古尾谷:最初に採用活動では、どのような媒体・ルートを使用しているか教えてください。

木村:弊社では以前からMS-Japanを活用しており、「Best Professional Firm」を4年連続で受賞しています。
その他にはヒュープロ、人材ドラフト、ビズリーチ、CPAキャリア、ミツカルなども利用しています。また、月額固定での出稿ではユアキャリア(クラウドパートナーズ)を使っています。中でも、ヒュープロさんは特に紹介数が多く、担当者の方の対応力にも助けられています。MS-Japanさんは紹介数は少なめですが、弊社の文化やニーズを理解してくださっており、マッチ度が高い印象です。
他に、弊社のユニークなルートとしては、私が青山学院大学会計プロフェッション研究科の客員教授を務めている関係で、同大学からも税理士を目指していたり、税理士科目を持っているような優秀な学生が毎年入社してくれているのでありがたいですね。現在は4名が在籍中です。
以前は私自身が採用業務を兼任していましたが、日程調整などで支障もありました。現在は採用担当役員と専門社員を配置し、各媒体へのアプローチ体制を整えています。

MS-Japan — 30代・40代に強い経理・人事・法務、弁護士・公認会計士・税理士に特化した転職エージェント。
Best Professional Firm

古尾谷:木村先生が大学の客員教授で大学との連携型採用ができるのは強みですね。

大平:当社では人材ドラフトやヒュープロをはじめミツカル、過去にはen転職やハローワーク、リアルミーというママさんたちの転職エージェント、大原の就職フェアなど、さまざまな採用ルートを活用してきました。また、リファラル採用も積極的に取り入れており、直近3ヶ月では約20名を採用しています。

古尾谷:リファラルで採用できるのは強いですね。直近20名の採用は凄いです。

橋場:弊社では人材ドラフトを主力媒体としており、担当者のご尽力もあって多くの応募をいただいています。その他には、無料枠のエンゲージも利用しており、そこからIndeedなど複数の求人サイトに一括掲載されています。経験者の応募はほとんどないため、基本的には未経験者向けの採用です。ヒュープロおよびヒュープロダイレクトとも継続して連携しており、最近も打ち合わせを行いました。このほか、キャリアコミット、ユアキャリア、リファラルも利用経験があり、ハローワークは社風とのミスマッチから現在は使用していません。また、レックスアドバイザーズも併用しています。

【ベンチャーサポートの場合】

ベンチャーサポートでは、リクナビやen転職などの大手人材紹介サービスに加え、ヒュープロや人材ドラフトのドラフトシステム、Dodaのダイレクトスカウトなども活用しています。最近はAIを活用したマッチング機能のあるサービスも増えており、応募数は多いものの、必ずしも求める人材に合致するとは限らないのが現状です。定期的にハローワークやオンライン説明会も開催し、幅広い層にアプローチしています。2024年はグループ全体で約386名を採用し、そのうち税理士法人だけで200名に達しました。また、東京などで育成したアシスタントが事業会社の経理職へ流出する課題を踏まえ、現在は仙台オフィスで遠隔支援を行う体制に移行。アシスタントは原則社員雇用とし、今後も職種に応じた採用戦略を進めています。

森屋:採用媒体やエージェントの使い分けについて、皆さんはどのようにされていますか?

橋場:私は基本的に使い分けてはいません。広告媒体とエージェントで多少フィルターのかけ方は変えますが、伝える内容は共通しています。

木村:うちも、求めている人材像は一貫していますが、エージェントによって紹介される層が異なることはあります。若手が多かったり、経験者が多かったりといった違いは感じますね。

大平:当社では、採用層に応じた媒体の使い分けを試みましたが、広報やIT/DX化といった専門職の採用では、一般媒体では、手間がかかるばかりで効果が得られず、やはりエージェントを活用した方が有効だと認識しました。
一方、総務やパートタイマーといった職種に関しては、リクナビのような一般媒体の方が効果的だと感じています。

媒体選定や紹介会社との連携方法・求人情報や自社採用サイトの工夫について

古尾谷:採用にあたって、媒体選定や紹介会社との連携方法、求人情報や自社採用サイトの工夫についてお聞かせください。

木村:私たちは中小・中堅企業を支援の中心に据えており、税務会計を軸に、相続や事業承継、未来志向の経営支援などの付加価値業務まで対応できる「総合ファーム」を目指しています。特に中堅企業へと成長する可能性を持つ企業との関係構築を重視しています。そのため、ホームページも「税務に特化した事務所」というより、コンサルティング色の強い構成にしています。

 

古尾谷:実際にコンサル領域の業務も担われているのでしょうか?

木村:コンサル領域としては、今後展開を予定しているのも含めて、事業承継対策、組織再編などの高度税務対策、資金調達をはじめとする財務コンサル、保険・不動産コンサル、、成長戦略としてのM&A支援・経営会議支援・MASコンサルなどがあります。また今後は社内での異動によって複数のコンサル分野を経験できる体制を整えていきたいと考えています。

古尾谷:今、20代や新卒層では、「コンサルタント」が人気上位の職種だそうですね。やはり給与水準が高いというイメージがあるからでしょうか。

木村:確かに「コンサル」という言葉は響きが良く、給与も高そうだという印象を持たれがちです。ただし、あくまで税理士法人での採用をしていますので、まずは税務会計の業務にしっかり取り組んでもらうのが前提です。いきなりコンサル業務というわけにはいきません。
目安としては、入社後2年ほどは税務を中心に経験を積んでいただき、3年目以降に、本人の希望と上長の判断をもとに、コンサル領域へ本格的に関わっていく、という流れを想定しています。

古尾谷:社内で領域を横断できるのは、成長を実感しやすい環境ですね。

木村:はい。例えば、最初は財務コンサル、次は経営会議支援、その後はM&A支援へと、段階的に経験できる仕組みを整えていきたいと考えています。まだ完全には機能しきれていませんが、こうした説明を採用面接で話すと、候補者からの反応も非常に良いですね。中小企業向けのコンサルに力を入れている中小税理士法人はまだ少ないので、十分に勝機があると考えています。

古尾谷:次に、大平先生は採用活動で工夫していることはありますか?

大平:当社では、人材紹介会社に、求める人材像をあらかじめお伝えした上で、それに合った方をご紹介いただくのが理想だと考えています。そのうえで、面接を行い、「ぜひ採用したい」と思った場合は、即決することが多いです。条件面も含めてその場で提示し、他社へ流れてしまうリスクを最小限にするよう努めています。規模が小さい時期は、経営陣全員で面接に立ち会い、その場で採用を決定することもありました。ただ、100名規模になると、それはなかなか難しくなりますね。
私は基本的に面接に立ち会っていません。現場の責任者に権限を渡していて、幹部は事前に候補者の資料に目を通しています。即採用する場合は、採用を判断した責任者の判断に任せ、その責任も明確にしています。即採用をしなかった場合は、私が再度面接を行って確認することもあります。

古尾谷:御社は歩合制の要素も強いと伺いましたが、それに関する採用時の見極めは?

大平:歩合制は、ある種のインセンティブではありますが、見せかけのスキルでは実際に報酬は上がりません。そのため、面接時には「あなたの実力だとこれくらい稼げるだろう」という現実的な話もします。ただ、それだけだとお金優先の職場になってしまうので、当社の理念である「お客様に寄り添う姿勢」が体現できる人材かどうかを重視しています。

古尾谷:続いて、橋場先生お願いします。

橋場:人材紹介会社とのやり取りにおいては、工数を最小限に抑えつつスムーズに成約できる体制を重視しています。まずは弊社の募集条件を明確に伝えることが基本です。条件が曖昧なままだと、無駄なやり取りが増えてしまうため、初期段階で丁寧なすり合わせを行うようにしています。
面接については、現在の規模であれば私自身が直接対応し、その場で採否を判断することもありますし、必要に応じて2回実施するケースもあります。

古尾谷:採用後のミスマッチを防ぐために行っている対策はありますか?

大平:ミスマッチは面接では見抜けず、入社後に明らかになることも多いため、可能な限り減らす工夫をしています。特に面接では、当社のデメリットも包み隠さず伝えるようにしています。求職者との関係性を上下ではなく、フラットにして、「こちらがあなたを採用したい」というスタンスで話すことを大切にしています。

橋場:私も面接時にポジティブな情報ばかりを伝えるのではなく、実情を正直に話すことを心がけています。例えば、「残業はほとんどない」といった誤解を与えないよう、実際の勤務実態を明示し、入社後のギャップを減らす努力をしています。
離職が発生すると、紹介会社との契約上の返金対応が必要になる場合もありますので、長期的に定着するマッチングを目指すのが双方にとって理想的です。

経験者と未経験者採用

古尾谷:未経験者の採用状況についてはいかがですか?

大平:現在は、ほとんどが経験者です。というのも、応募の段階で未経験者がフィルターで除かれてしまっている可能性もありますが、結果として経験者が多くなっています。今年3月から募集を始めて約200名の応募があり、うち20名を採用しました。その8割が経験者で、未経験者はわずか数名です。面接の通過率は10〜15%程度ですね。

橋場:弊社は真逆で、応募者のうち経験者は全体の10〜20%程度で、そのうち採用した内訳では、経験者3割・未経験者7割という構成で、今後の課題は未経験者を育てる教育体制の強化にあると考えています。

木村:弊社でも経験者2割・未経験者8割ほどです。経験者の採用は難しいので、ポテンシャルを持つ未経験者の育成に注力しています。経験者が採用できればラッキー、というくらいのスタンスで行っています。

古尾谷:経験年数による面接の判断基準はありますか?

大平:1〜2年の方でも、前職の事務所の規模や内容によっては必ず面接するようにしています。ただ、年収や実力とのバランスを見て、条件に合わない場合は見送ることもあります。現在は6支店体制ですので、支社長ごとの判断基準にバラつきが出ないよう、一定の条件に合えば必ず面接するという方針を徹底しています。

木村:基本的には1科目以上合格されている方を基準としていますが、科目合格がなくても、税理士を目指し、税理士試験の学習に真剣に取り組んでいる方であれば対象としています。

古尾谷:こうして比較してみると、リライトさんでは経験者の採用が比較的うまく進んでいる印象です。ARKさんやKMCさんも、ある程度は採用できているかもしれませんが、全体として経験者の採用は厳しい状況でしょうか

森屋:おっしゃる通りです。特に経験者の方は、大手や準大手の事務所を志望される傾向にあります。税理士試験の受験者数も10年前と比べて約半減しており、そもそもの人材母数が減っています。

古尾谷:たとえば、経験者の登録が多い紹介会社というと、人材ドラフトなどの老舗が思い浮かびます。

木村:MS-Japanも老舗で安心感がありますね。ヒュープロさんは未経験者が中心ですが、若手経験者の紹介も一定数あります。

森屋:特に20代〜30代で、現職に物足りなさを感じていたり、より専門性を高めたいという意欲のある方の登録が目立ちます。最近では40〜50代のベテラン層からの登録も増えてきました。

古尾谷:求職者も紹介会社を使い分けている印象があります。人材ドラフトやMS-Japanのような老舗だけでなく、リクルートのような大手にも並行して登録するケースが一般的なのではないでしょうか。

森屋:そうですね。求職者の側でも複数のサービスを利用する傾向があると感じています。

大平:橋場先生の事務所では、ベテラン人材の採用はあまり行っていない印象がありますが、いかがですか?

橋場:確かにそう見られがちですが、最近は私と同世代で10年以上の経験を持つ方を採用した例もあります。社風に合う方であればベテランでも前向きに検討しています。ただ、実際にはなかなかマッチする方が少ないのが現状です。

木村:私の事務所では、これまで自分より年上の方を採用せずにやってきました。平均年齢がやや若返ったこともあり、40代以上の方の採用については、これまでの方針や現場のバランスも踏まえ、慎重に検討しています。

古尾谷:大平先生は、大原の説明会なども活用されているようですね。

大平:はい、採用目的というより、業界全体の空気を感じるために参加しています。他の媒体とは雰囲気が全く異なり、同業者の動向や学生の様子を把握する良い機会になっています。
現在の参加者は必ずしも即戦力ではありませんが、数年後に「見たことがある」と感じられるような接点を作るのが狙いです。広告というより、SNS的な感覚で情報発信しているイメージですね。将来的に興味を持ってもらえれば、転職に繋がる可能性もあると考えています。

古尾谷:橋場先生は、これまで未経験者の採用が中心だったようですが、ある程度リソースが確保でき、今後採用方針に変化があるでしょうか?

橋場:はい、昨年は未経験者の採用が多く、教育担当への負担も大きかったため、今年は経験者に重点を置いた採用を進めています。ただ、社風に合う経験者を見つけることは難しく、採用のハードルは高いですね。

古尾谷:一方で木村先生の事務所は、経験者・未経験者の両面で体制が整っている印象です。

木村:KMCでの勤続10年以上選手が15名ほど在籍しており、彼らが若手育成を担っています。ただ、その中堅層にも業務が集中しているため、未経験者の成長を通じて分散を図っているところです。また、今後は上場企業の対応や高度税務を担える税理士クラスの採用も検討しています。今ちょうどビズリーチ経由で面接予定の方もおり、年収は800万円からスタートで、即戦力であれば1,000万円台も視野に入れています。(対談後に即戦力税理士の採用が決まりました)

古尾谷:即戦力となる人材であれば、1,000万円も検討に値すると考えられますよね。

採用後のボーディング施策

古尾谷:採用後の定着について、各社の工夫を教えてください。

木村:当社では、理念や文化に共感できる方が自然と残るよう、採用段階で価値観の共有に注力しています。オフィスは来客時に執務スペースまで見える設計で、社員の挨拶や立ち居振る舞いからも雰囲気を伝えられるようにしています。また、面接時には「善によって人々の持続的発展に寄与する」といった理念も丁寧に説明します。
実際、顧客アンケートでも「寄り添ってくれる」「親身」など、情緒的な価値を評価いただいています。社内でもチームワークを重視し、定期的なミーティングや1on1、チームランチの補助など、コミュニケーションの機会を多く設けています。
税理士試験を目指す社員向けには「受験対策室」を設け、試験直前期には執行役員が参加する対策室が業務調整の相談にも応じています。退職を未然に防ぐため、現場と受験支援の両軸でバックアップしています。

古尾谷:税理士試験受験生には特に働きやすい環境ですね。

木村:はい。受験生の方は意欲的で将来的な力も期待できるので、しっかりサポートしたいと考えています。

大平:当社では、先ほども話しましたが採用段階でのミスマッチ防止に注力しており、昔のような自由な社風を前提にした選考から、近年は組織力や人間関係のバランスを重視する選考へと変わってきました。
また、実務や研修を通じて成長できる環境であるかどうかも、求職者の方々が重視される点だと思うので、入社後も、研修制度の整備や定期的な面談を通じて、成長機会の提供と離職率の低下に取り組んでいます。支社ごとに特色を認めつつも、一定の人間関係の相性も確認するようにしています。

橋場:弊社は、働く環境や福利厚生に力を入れています。プロテイン飲み放題やデロンギのコーヒーメーカー、健康志向の軽食を割引料金で食べられるシステムなどを常備し、社内カフェのような空間を整えています。残業抑制や有給取得も奨励しており、以前の勤務先(ベンチャーサポート)で学んだ効率化の知見を反映しています。さらに、業務効率化の一環として、Googleのノーコードツール「AppSheet」で社内システムを自作しました。kintoneよりもランニングコストが低く、社内資産として残る点が評価ポイントです。

面接における“魅力づけ”

古尾谷:面接における“魅力づけ”について、どのような工夫をされていますか?

森屋:内定承諾率が高い事務所は、入社後にどのような業務に携わるのかを、具体的に説明していますね。求職者にとっては、自分のキャリアがイメージできることが安心感につながり、意思決定も早まる印象です。

古尾谷:特に未経験者には、具体的な説明があると心強いですね。例えば「入社から6ヶ月間はこういう業務に取り組みます」と伝えられたら、私でも安心します。

森屋:その通りです。さらに、面接時に執務スペースを見学してもらうなど、職場環境を体感してもらう工夫も有効です。その場で「採用します」と伝えた方が、承諾率は高くなる傾向があります。

橋場:ただ、即決で「採用です」と伝えた結果、逆に不安を持たれて辞退されたこともありました。必ずしも即答が効果的とは限らないと感じましたね。

木村:以前は面接1回で決めていましたが、最近はリスク管理の観点から2回に増やしました。候補者との相互理解を深めるためにも、段階を踏む方が良いと判断しています。

古尾谷:昔は面接後に飲みに行く文化もありましたよね(笑)10人くらいで囲んで歓迎したり…。

大平:うちも一度やりましたが、翌日から連絡が取れなくなってしまって(笑)。大原の説明会のあと、近くの事務所に連れてきて、お寿司やお酒をふるまったのですが……今ではもちろん禁止です。

古尾谷:歓迎のつもりでも、相手にはプレッシャーに映ることもあるんですね。

今後の展望

古尾谷:最後に、これからの採用や組織づくりにおける展望についてお聞かせください。

木村:税務会計業務は今後も柱ではありますが、記帳や申告業務はAIなどにより効率化されていくでしょう。そこで私たちが注力しているのが、コンサルティング分野の強化です。特に「中小企業のCFO的な立ち位置」で、資金調達などの財務にとどまらず、先ほどお話したように、成長戦略から事業承継まで幅広く支援する形を想定しています。
採用においても、こうした将来性ある業務の魅力を伝えることで、求職者の関心を高めています。同時に、既存社員の定着も大きな課題です。新しい業務への挑戦やオフィス移転など、ワクワクする環境づくりを進めつつ、給与などの待遇面とのバランスを取り、「物心両面の幸福」を実現する仕組みを整えています。

古尾谷:そのビジョンは非常に説得力がありますね。求職者にも伝わると感じます。

大平:私も近いビジョンを持っており、あとはそれを「どう伝えるか」に注力しています。理念や方針を“見える化”し、社員や求職者が実感を持てるよう、行動と成果で示す必要があると考えています。税理士業界全体が変革の時期にあり、多くの事務所が似た方向性を掲げる中で、いかに自社のカラーを明確にし、言語化していくかが重要ですね。
CFO的な業務については当社でも取り組んできましたが、課題はやはり「言語化力」です。やっていることをきちんと伝えられるよう、社内でもそのスキルを磨く取り組みを始めています。

古尾谷:「見える化」と「言語化」は本当に難しいテーマですね。

大平:実際に成果が出ていても、それを言葉にできていないと伝わらない。過去に指摘を受けたこともあり、今後の重点課題です。表現力の向上が、組織としての強さにもつながると考えています。

橋場:私が開業当初から感じているのは、将来的に税理士という職業自体が変化するということです。 エストニアのように、税制の自動化が進めば、単純な税務処理だけでは成り立たなくなる。だからこそ、経営者の相談相手としての役割――悩みの“壁打ち”や頭の整理といった、人間だからこそできる価値提供に力を入れています。
業務の効率化・省力化を進めつつ、人にしかできない仕事に集中する。その両立を目指し、今も試行錯誤を重ねているところです。

古尾谷:皆さんの取り組みから、業界の未来への真摯な姿勢が伝わってきました。本日はありがとうございました。

木村 智行様
税理士法人KMCパートナーズ 所長・代表社員
1976年生まれ。慶應義塾大学商学部を卒業後、都内の会計事務所での勤務を経て、2006年に父の事務所である木村会計事務所(現・税理士法人KMCパートナーズ)に入社。2021年に代表社員所長に就任。
2023年12月には渋谷サクラステージに本社を移転し、第二創業期として次のステージに歩みを進めた。2030年までに100名体制の実現を目指し、「少数精鋭から多数精鋭へ」を掲げて事業拡大を進めている。
大平 耕介様
税理士法人リライト 総代表社員
2011年の創業当初より創業メンバーとして参画し、前代表・瀬谷幸太郎氏と共に事業を推進。東京・水道橋の本部を中心に全国6拠点へと展開する体制を築き上げた。士業業界において前例やルールが重視されがちな中、「お客様のために」という価値観を軸に、自由度の高い業務スタイルと柔軟な組織体制を整備。毎年200件前後の紹介を受けるなど、顧客満足度の高い税理士法人として成長を遂げている。
2021年より、経営のバトンを受け継いだ2代目代表として、創業時の苦難と向き合いながらも、事業の本質に立脚した営業スタイルと人材育成のビジョンを打ち出し、次世代の士業像を体現している。
橋場 和弥様
ARK税理士法人 代表税理士
高卒・建設現場出身という異色の経歴を持ちながら、3年で税理士資格を取得。2022年に開業後わずか3年で顧問先500社、従業員50名超を擁するまでに急成長した「爆速成長税理士」。
税務・会計業務にとどまらず、経営分析、事業改善、キャッシュフロー改善まで対応。顧問先の財務データを独自フォーマットに基づいて可視化し、事業計画の立案から進捗管理、シミュレーション、改善提案まで一貫して支援する体制を整えている。
「オーダーメイドサポート」による顧問先の黒字率は75%超。税務効率化と伴走型の経営支援を両立させ、顧客の成長とともに組織も急拡大中。仲間や家族との時間と経済的自由の創出を理念に掲げ、業界内でも高い成長率を誇る。
森屋 翔平様
税理士法人リライト 総代表社員
株式会社ヒュープロ 人材紹介事業部 士業ブロックマネージャー
1994年生まれ。神奈川大学を卒業後、大手複合機メーカーの販売会社に入社し、営業職としてキャリアをスタート。
2021年8月より株式会社ヒュープロに入社し、3か月でリクルーティングアドバイザーとして歴代最高売り上げを記録。初代年間MVPを獲得。
2つのチームの立ち上げ、その後 西日本ブロックマネージャーとしてチームを牽引。2025年より東日本エリアマネージャー、士業ブロックマネージャーに就任。
税理士・会計事務所領域において、年間数百名の求職者と経営者をつなぎ、志ある人材がこの業界に惹かれる循環づくりに尽力している。

企業情報

会社名
株式会社ヒュープロ
所在地
〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂2-16-4 野村不動産渋谷道玄坂ビル 4階/6階(受付)
設立
2015年11月19日
代表者
代表取締役 山本玲奈
事業内容
人材紹介サービス(士業・管理部門特化)、および士業・管理部門のキャリアコラムが集う「Hupro Magazine」の運営
企業理念
アジアを代表する会社をつくること。テクノロジーの力で、個と社会に成長を提供し、人をプロデュースするテックカンパニーです。
ミッション
「Drive Person.」- 関わるすべての人の前進と成長に貢献すること。
バリュー
「Hupro Quality」- 仲間、顧客、結果の全てに対して真摯であること、誰よりも先陣を切って走り出すこと、新しい価値や選択肢を生み出すこと、世の中に大きな影響を与えること。