近年、中小企業の経営者の高齢化や後継者不足が進み、事業承継が重要な課題となっており、M&Aも選択肢の一つとなっている。
税理士として、顧問先にどのようなサポートをすべきか、M&Aの専門家である株式会社ストライクの廣田氏・山下氏と、同社とともにM&A支援サービスを展開するSMC税理士法人岡本氏に、ベンチャーサポート相続税理士法人の代表税理士・古尾谷が取材した。
ストライクのM&A仲介サービス
- 左 株式会社ストライク 廣田尚登 様
- 右 SMC税理士法人 代表社員 岡本英樹 様
古尾谷:まず、ストライクさんが行われているM&A仲介サービスについて、教えてください。
廣田様(以下廣田):当社では、ルート別に大きく 3つの部門でM&Aの仲介サービスを展開しています。まず1つ目は、直接事業会社様にアプローチするダイレクト営業部門。2つ目は、主に金融機関様から売却を検討されている企業様をご紹介いただく部門。そして3つ目は、全国の税理士・会計士の先生から顧問先様をご紹介いただくコンサルティング部門です。
私が責任者を務めるコンサルティング部では、全国の会計事務所の職員様向けにM&Aに関する勉強会や、顧問先様向けのセミナーを実施し、幅広い情報提供を行っております。
古尾谷:御社は業界トップ3に入る規模ですが、他社のM&A仲介会社と異なる点や、強みについて教えてください。
廣田:当社の強みとして、まず代表取締役の荒井邦彦が公認会計士・税理士として監査法人に勤務したのちに創業した経緯もあり、全国の会計事務所のお役に立てるサービスを提供している点が挙げられます。現在、北陸と淡路島を除く全国22の税理士協同組合と提携しており、その会員総数は6万6000人以上に上ります。税理士全体の数がおよそ8万人前後とされる中で、約8割の先生方と繋がりを持たせていただいている状況です。これが、税理士業界からの一定の評価につながっていると考えています。
またサービスの大きな特徴として、譲渡のご相談をいただいた際、ご相談段階では着手金が発生しない点も、他社との差別化になっております。
着手金無料 安心の料金体系
古尾谷:具体的にどのような料金体系ですか?
廣田:以前は、M&A仲介契約締結時に着手金を頂戴しておりましたが、案件の進展具合が不確定な段階で料金を頂戴するのはお客様にとってリスクが大きいと判断し、現在は、買い手候補先との基本合意が成立し、具体的な交渉に入る段階で『基本合意報酬』をいただき、M&A契約が正式に成立した際に『成約報酬』をいただく、2段階の料金体系に変更しています。これにより買い手探しに不安を感じる売り手企業様が、安心して当社の仲介サービスをご利用いただける体系となっています。
古尾谷:M&Aのご相談では、どんなお悩みが多いのですか?
廣田:多くの場合、売り手様が気になるのは『売却価格がいくらか』『どんな買い手企業を選ぶべきか』という点です。そこで、直近の決算書をもとに、適正な売却価格をシミュレーションしながら、必要に応じて税理士の先生方と協力して、企業価値を高めるための改善策や、売却に向けた長期的なプランのご提案を行っています。
古尾谷:M&A後のトラブルなどはありませんか?
廣田:従来M&A業界を騒がせている問題として、売り手企業が隠れた債務を抱えているなど、売り手企業が買い手企業へ伝えていない重大な事項が、譲渡後に発覚するというトラブルが少なからず発生していました。
しかし近年では、買い手側のモラルが低下しているケースが見受けられます。M&Aは本来、買収した会社を発展させることを目的に行われるはずですが、買収直後に買収した会社の資金を吸い上げたうえに、倒産させ、経営者保証が解除されなかったといった事例も報告されています。 このような問題に対し、当社では28年培ってきた買い手企業様との良好な関係性や情報も豊富にございますし、買い手企業様からも決算書をもらい一定の調査を行い、当社担当者も直接面談させていただいた上でご提案しております。この取り組みにより、当社では、M&A後のトラブルやクレームが非常に少ない実績がございます。
古尾谷:M&A会社を選ぶ際には、買い手企業の選別をしっかり行っているかも見極めないといけないですね。
廣田:売り手企業様の情報精査に加え、買い手企業様がどのような会社なのかを仲介会社としてきちんと把握した上で、マッチングさせていただくことが大前提だと思っております。
SMC税理士法人の取り組み
古尾谷:ここからは、SMC税理士法人の岡本先生に、創業や現在の運営体制について伺います。
岡本先生(以下岡本):当社SMC税理士法人は、創業者の曽根康正が平成元年に多治見で創業し、現在は名古屋に本社を構え、多治見、中津川、東京、埼玉の5拠点から中小企業の皆様をサポートしております。私は中津川事務所の代表を務めております。
社員数は、経営コンサルティング、保険、マーケティングなどのグループ会社4社を含め、全体で約100名で運営しています。
古尾谷:御社は、税務会計はもちろん経営コンサルティングも軸に展開されていますよね。
岡本 毎月の試算表の作成をはじめ、迅速な決算の組み立てや、経営計画の策定を徹底しています。曽根が創業時から掲げた『顧客に真摯に向き合う』という考えを基に、たとえ小規模な企業でも、しっかりとした経営計画とモニタリングが必要と考えています。税務顧問先は約1,300社、経営支援のコンサル先のみで160社以上のクライアント様をサポートしており、『多くの100年企業を創る』という曽根のコンセプトを実現するための取り組みを続けています。
古尾谷:事業承継に関するご相談も多いですか?
岡本:顧問先の事業承継のご相談は、相続税申告の案件とともに年々増えてきています。やはり、100年企業を創る中で、相続や事業承継も避けて通れませんので、生前対策も含め特に注力しています。
古尾谷:事業承継に関しては、後継者不足の問題が深刻だと聞きます。
岡本:はい。特に、多治見や中津川の地域では、『後継者がいない』という状況が目立ちます。親族に事業を引き継がせない場合、社内承継をご提案することもありますが、ふさわしい人材がなかなか見つからず、結果的にはM&Aによる売却という形をとることが多いのが現状です。また、一部では一般社団法人を設立し、相続税の負担を軽減するスキームもご提案しています。
SMC税理士法人とストライクの連携
- 左:株式会社ストライク 山下遼大 様
古尾谷:次に、SMC税理士法人とストライクとの連携についてお話を伺います。現在、ストライクさんにはどの程度の案件をお任せされているのでしょうか?
山下様(以下山下):現状、潜在的なものも含め30社程度の案件候補があり、すでに動いている案件もあれば、売主様の都合で一時停止しているものもあります。
岡本:弊社では、各担当者が顧問先との面談でニーズを引き出し、支援候補先となりうるリストを作成しています。それを定期的にストライクさんに共有し、1社ずつ丁寧に検討しながら、初回相談の機会に繋げております。
古尾谷:SMCさんがM&A支援を始めることになったきっかけを教えてください。
岡本:顧問先の事業承継の話が、私たちが提案やサポートをしないまま、他で進んでいたことがあり、それが一番のきっかけとなりました。
古尾谷:ストライクさんとはどんな流れで提携することになったのですか?
岡本:最初は、「職員様向けの勉強会をやらせてもらえませんか」というストライクさんからの依頼で始まりました。そこから個別の相談会を開いていただいたり、M&Aに関する基礎知識から具体的な提案方法まで、アドバイスをいただいたりしております。
古尾谷:確かに、職員がM&Aについて知らなければ、話を進めることはできませんよね。ストライクさんは、会計事務所での勉強会開催や職員さんからの質問対応などもしてくれるのでしょうか?
山下:もちろんです。勉強会後、M&Aに関する専用のChatworkグループを作り、担当者さんが気になることがあれば、私と直接チャットでやり取りできる環境を作っています。質問者以外の方もそのやり取りを見ることができるため、M&Aに関する情報共有がスムーズに行えています。
古尾谷:とはいえ、会計事務所の先生方の中には、外部のM&A会社に対して『自分たちの顧客を荒らされるのでは?』という不安を持つ方もいらっしゃいますが、どのように信頼関係を築いているのでしょうか?
山下:私たちは、会計事務所の皆様と密にコミュニケーションを取りながら、進捗についても逐一ご報告することで、安心して顧問先様をご紹介いただける環境をお作りしています。顧問先様のニーズについてもしっかりと把握し、たとえば、『売却価格についての具体的な数字』や、『買い手企業にどのような条件を希望されるか』といった点について、随時フィードバックをいただきながら、最適なマッチングを進めております。
また、小規模企業様の場合、当社の報酬が事業規模に対して高く感じられることもあります。そうした場合は、先生方や売主様のご了解を得た上で、中小企業向けのM&Aマッチングプラットフォーム『M&Aプラス』※に掲載する手続きを当社が代理で行っています。
- ※
- M&Aプラス・・・ストライク社が提携しているデロイトトーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社が提供している中堅・中小企業向け M&Aマッチングプラットフォーム
古尾谷:M&Aをする企業はどのくらいの規模が多いのでしょうか?
山下:売上規模2億円以上の企業様が多いですね。2億円以下の企業様にも、『M&Aプラス』のように企業規模に応じた柔軟な提案ができる体制を整えていますので、まずはご相談頂ければと思います。
古尾谷:岡本先生はストライクさんのどんなところに魅力を感じますか?
岡本:案件の進捗状況を定期的に確認するなど、継続的にフォローアップや丁寧なサポートをいただいており、大変助かっています。信頼できるパートナーとして、心強く感じています。
また、会計事務所と顧問先との関係性をよく理解されているからだと思いますが、無茶な営業をされないのでご紹介しやすいですね。
ある歯医者さんの事例では、銀行がM&Aの提案を持ちかけてきたそうですが、売却ありきの強引な営業だったようで、そのようなやり方の会社には顧客を紹介できませんよね。
古尾谷:信頼できる会社を紹介したいですね。
岡本:実際、そうした外部から話が持ち込まれると、社長自身が抱える本来のニーズが、後回しになってしまうことがあります。特に、銀行から先に声をかけられると、融資などでお世話になっているという気持ちから、断りにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。
そこで、私たちはあらかじめストライクさんと連携し、まずはどんなサービスか知ってもらうことを徹底しています。『どんなサービスか知ってもらう』という形で、事前の情報提供を徹底しています。外部からの営業に流される前に、日ごろから当社のM&A支援の信頼性を伝えることで、『もしそうなった場合は、SMCにお願いしたい』と認知していただくことを目的に取り組んでいます。
古尾谷:税理士側から話をしないと、お客様もなかなか踏み出せないですし、そもそもM&Aがどんなものか知らない方も多くいらっしゃいますもんね。
岡本:やはり事業承継について本気で考えていただくためには、こちらから積極的に呼びかけていく必要がありますし、そうしたきっかけ作りも重要だと考えております。たとえすぐに案件化しなくても、顧問税理士としての付加価値サービスになると考えています。
『M&A=社長は即引退』というイメージをお持ちの方も多いのですが、実際には、譲渡後すぐに社長が引退されるケースは、あまり多くありません。多くの場合、一定期間は引き続き残られます。社長のご意思を最大限尊重する形で、様々な選択肢がありますので、ご安心いただけるような伝え方を心がけています。
古尾谷:ストライクさんに面談に同席していただいた際の、顧問先の反応はどうですか?
岡本:事前に「肩肘張らずに、気軽にお話を聞いてみませんか?」というスタンスでお話しているので、特に抵抗感はないですね。M&Aの仕組みや報酬について全くご存じない方や、漠然と考えているだけで、なかなか行動に移せない方も多いと思います。必ずしも案件に繋がらなくても、話を聞いて検討するきっかけを作るだけでも、お客様のためになることを提供できていると思っております。
山下:岡本先生には本当に助けていただいています。社長自身は「まだまだ5年先までできるだろう」と思っていても、銀行などが先に接触し話が進んでしまう前に、早めに私たちにつないでくださいます。SMCさんは、その辺りのアンテナの感度が本当に高いですね。
古尾谷:後継者が見つからず、M&Aをしないまま経営者が亡くなり、そのまま倒産するケースも多いのでしょうか?
岡本:やはり経営者の高齢化が進んでいるためそういったケースも少なくないと思います。ご自身ではなんとかなると思っていても、客観的に見ればすぐにでもした方がいい会社もとても多いので経営者の方には常に危機感を持っていただくのがいいと思います。
M&A支援を通じた事業承継の未来
古尾谷:最後に、これからM&A支援事業に取り組みたいと考えている税理士の先生方へ、メッセージをお願いいたします。
岡本:事業承継は会社の存続に直結する重要なテーマです。M&Aが有効な事業承継の手段であるという情報提供は、税理士として絶対にしないといけないことだと思います。顧客にニーズがあるかどうかに関わらず、サービスがあることを知ってもらう事が大切です。楽観視していた経営者に限って、のちのち相談にいらっしゃることもよくあります。
私自身、最初は『M&Aで譲渡したら顧問先が減るのでは?』という懸念がありました。でも、成約時にフィーをいただけるので、将来得られるはずだった顧問料を前払いしてもらうようなものだと考えています。
他のM&A会社に顧客を取られてしまう方が損失は大きいですし、何より、顧問先が減るというデメリットだけでなく、M&A支援によるメリットを考慮することが重要だと思います。
信頼できるM&Aパートナーとの連携が、顧問先の危機回避や企業存続に大いに寄与することを実感しています。ぜひ、皆さんも積極的に取り組んでいただきたいと思います。
廣田:会計事務所様が顧問先様のM&Aを支援するメリットは、M&Aの紹介手数料による新たな収益といった直接的なメリットに加え、会計事務所様に対するM&Aサポートの社会的要請が非常に高まっている点が挙げられます。この点については、私から強くお伝えしたいです。顧問先様の事業承継をサポートすることで、顧問先様からの信頼を得て、事務所の成長にもつなげていただければと思っています。
古尾谷:M&A支援は、税理士にとって重要な業務の一つだと、考えさせられました。本日は貴重なお話を有難うございました。
- 廣田 尚登 様
- 株式会社ストライク 執行役員 コンサルティング部・パートナー営業企画部統括
大学卒業後、地元金融機関に勤務。主に法人営業を担当2017年、株式会社ストライクに入社。多様な業種のM&A支援実績があり、事業承継型M&Aの他、中堅企業の戦略的M&Aなど幅広く手掛けている。21年より現職。 - 岡本 英樹 様
- SMC税理士法人 代表社員 / 中津川事務所 代表
大大学卒業後、株式会社十六銀行に入社。2003年SMCグループ入社。銀行員としての経験と税理士としての知識を併せ持ち、中小企業の成長と円滑な事業承継をサポートする。 - 山下 遼大 様
- 株式会社ストライク コンサルティング部アドバイザー
2019年に新卒で株式会社ストライクに入社。22年4月から名古屋に転勤し、名古屋・大阪エリアの税理士事務所の開拓を行っている。
企業情報
- 企業名
- 株式会社ストライク
- ホームページ
- https://www.strike.co.jp/
- 設立
- 1997年7月
- 所在地
- 東京都千代田区大手町1丁目2番1号 三井物産ビル15階
- 代表者
- 代表取締役社長 荒井 邦彦
- 事業内容
- M&Aの仲介、M&A市場SMARTの運営、企業価値の評価、企業価値向上に関するコンサルティング、財務に関するコンサルティング、プレマーケティングサービス
- 資本金
- 8億2,374万円 (2025年6月30日現在)
- 上場市場
- 東京証券取引所 プライム市場 (証券コード 6196)
- 従業員数
- 450名 (2025年6月30日現在)
- 加盟協会
- 一般社団法人M&A支援機関協会