税務調査対応を柱の一つとしながら、ナイトマーケット分野への支援にも取り組む税理士法人松本。国税OB税理士を含む体制で年間約200件の税務調査に対応している。また、毎日配信を続けるYouTubeチャンネルは登録者数約28万人に達し、Webを通じた情報発信にも力を入れている。
さらに、一般社団法人 会計事務所連携協議会への参画など、会計業界全体の価値向上を見据えた活動について、TAX CONNECTIONの税理士・古尾谷が取材した。

- 税理士法人松本 代表税理士 松本 崇宏 氏
目次
品質重視の顧客対応で進む組織拡大
現在の事業規模や拠点数について教えてください。
松本:グループ全体で、現在約220名が在籍しています。拠点は渋谷の本店を含め、新宿、錦糸町、横浜、柏、大阪の計6箇所で展開しています。
なかでも大阪オフィスは東京と比較すると採用活動がうまくいっていることもあり、順調に拡大しています。昨年の増床に引き続き、2026年もオフィスの増床を行い、大阪単体で100名体制を目指しています。
士業グループの構成を教えてください。
松本:社労士法人、税理士法人、行政書士事務所を展開しています。さらに昨年、弁護士法人もグループに加わりました。
組織の雰囲気やスタッフ構成には、どのような特徴がありますか。
松本:国税OBのベテランから若手まで在籍しているため、年齢層には幅がありますが、全体としては明るく活気のある雰囲気です。
お客様からのご紹介も多いとお聞きしますが、社内で取り組まれていることはありますか。
松本:既存のお客様から新たなお客様をご紹介いただけるよう、定期的にお願いの場を設けています。
例えば決算報告のタイミングで、「もしよろしければ、ご紹介いただけませんか」と一言添えることを徹底しています。ただし、これはきちんとした納品や提案ができていることが大前提です。まずはお客様へサービス品質にご満足いただけているかを確認し、その上でお声がけをすることで、ご紹介をいただいています。
新規契約は年間でどのくらい増えているのでしょうか。
松本:ここ数年は、年間330件から350件ほどで安定しています。かつては400件を超えた時期もありましたが、現場への負荷が大きく、対応が追いつかなくなる懸念がありました。現在は無理に数字だけを追うのではなく、サービス品質や組織の安定性を保ちながら、着実に成長していくことを意識しています。
社会インフラとしての適正納税支援
ここからは、具体的な事業についてお話を伺います。まず、ナイトマーケット分野では、どのようにご相談をいただくことが多いのでしょうか。
松本:業界内のご紹介や既存の繋がりからのご相談が中心です。そもそもナイトマーケット関連の集客は、Web広告を出そうとしても制限がかかってしまうことが多いため、自社での記事ライティングなどは行っていますが、大がかりな宣伝はしていません。それでも、ありがたいことに継続的にお問い合わせをいただいています。
対応できる税理士が限られる領域で、貴社のような相談先があることは心強いですね。
松本:はい。風俗店の方が地場の税理士に相談しても受けていただけなかった場合、不安を抱えたままご自身で申告を進めたり、結果として無申告になってしまう恐れがあります。
最近では国税庁が公表する「所得税及び消費税調査等の状況」において、ナイトマーケットに関連する業種が上位に挙がっています。事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な業種として、最新の令和6事務年度分では、1位がキャバクラ、3位がホステス・ホストでした。もともと税務調査で注目されやすい業種ではありますが、最近では店舗側にとどまらず、そこで働くキャストやホストといった個人への調査も増えています。店舗側への調査をきっかけに、芋づる式に個人の無申告が発覚することもあります。
収入が高くても日々の支出が大きく、納税資金を十分に確保できていない方も少なくありません。後からまとめて対応に追われるのではなく、早い段階から適切に申告・納税を行うことを推奨しています。

やはり専門家をつけずに申告を進めるのは、リスクが大きいですね。店舗だけでなく、個人で働く方からの依頼も多いのでしょうか。
松本:当社では、個人の所得税の確定申告を年間1,650件ほど手掛けていますが、そのうちの約1,000件はキャストの方からのご依頼です。もし私たちが受け皿をやめてしまえば、その方たちが申告から遠ざかってしまう可能性もあります。
だからこそ、私たちが適正納税を支援することは社会的意義があり、一種の社会インフラのような面もあると考えています。
ナイトマーケット分野に対応する上での難しさ、重視されている点を教えてください。
松本:初めて出版した本のインパクトもあり、設立当初は『ナイトマーケット特化』というイメージが先行して、採用面やブランディングに影響が出ることもありました。現在は以前ほど特定の業界色を前面に出しておらず、当社の強みの一つとして位置づけています。
実務において重視しているのは、業種を問わず、適切に申告・納税しようという意識のある方を支援するという点です。資料のご提出にご協力いただけない場合や、適正な申告に向けたコミュニケーションが難しい場合には、無理にお受けしないこともあります。スタッフが安心して対応できる環境を守ることも、経営者として欠かせない視点だと考えています。
心のケアまで担う税務調査対応
具体的にどのような相談が寄せられるのでしょうか。
松本:ご相談の内容は様々で、税務調査が入った段階でご依頼いただくケースもあれば、前任の税理士から引き継ぐケース、また、高い専門性が求められる国税局の査察案件もあります。
調査終了後には、国税側から納税者に対して「今後はきちんと申告してください」と指導を受けるため、その流れで引き続き申告業務や顧問契約をご依頼いただく場合もあります。
専門家が間に入ることで納税者の方の安心感も変わってきますよね。
松本:納税者の方だけで対応するのは精神的にも大きな負担になります。そこへ税理士が代理人として入り、納税者と国税側の間に立つことで、交渉のクッション役を担うことができます。税務調査対応では、法的・実務的支援だけでなく、納税者の精神的負担を軽減することも重要だと考えています。
多くの方にとって税務調査はそう何度も経験するものではなく、不安を感じる方も少なくありません。だからこそ、手続き面で支えるだけでなく、精神面にも寄り添いながら伴走しています。
税務調査対応を事業化し、本格的に取り組むようになった経緯を教えてください。
松本:きっかけは、ナイトマーケット分野をはじめとした支援を通じて、税務調査の経験を数多く積んできたことです。税務署や国税局が関わる案件に対応する中で、税務調査対応の知見が蓄積されていきました。現在、税務調査対応は当社の柱の一つとなっており、15名ほどの国税OBが在籍する、万全の体制で臨んでいます。
法人・個人を問わず年間どのくらいの案件に対応されているのですか。
松本:約200件対応しています。そのうち既存のお客様の税務調査は40件ほどで、残りの4分の3以上は税務調査からの新規のお客様です。
発信責任と継続を土台にした動画配信
YouTube配信についても教えてください。現在の登録者数や再生数はどのくらいですか。
松本:2023年4月から始めて、登録者数は約28万人です。直近では週間で約450万再生、1日あたりに換算すると約65万再生ほど回っています。
どのような層の方々に多く視聴されているのでしょうか。
松本:20代から50代の視聴者が多い印象ですが、10代の視聴者もおり、幅広い層に視聴されています。男女比でいうと、男性が85%ほど、女性が15%ほどです。
配信を始めてから、お問い合わせ面での反響はいかがですか。
松本:ショート動画を中心に配信していますが、SNSや動画コンテンツは、その場で視聴者に楽しんでもらう性質が強いため、外部サイトへの誘導や直接的なお問い合わせに繋げる導線づくりには難しさもあります。
ただ、実際にYouTubeをきっかけにお問い合わせいただくケースはありますし、私たちのことを知っていただくきっかけとして非常に役立っていると感じています。街中で声をかけていただくことも増え、発信の影響力を実感しています。
動画配信をする上で、意識されていることを教えてください。
松本:特に意識していることは「毎日配信」です。週1回、複数本をまとめて撮影する体制で、毎日欠かさず投稿しています。
どれだけ質の高いコンテンツを作っても、動画は1本だけ伸びればよいというものではありません。複数の動画が関連し合い、互いを補完することで効果が生まれます。点と点がつながって線になり、その線同士が結びついていくことで、チャンネル全体の価値や利便性が高まっていきます。
時間も手間もかかりますが、継続することに意味があると感じています。
どのような内容を配信されているのでしょうか。
松本:時事ネタが中心です。実際の脱税事例を挙げて注意を促したり、最近では旅費交通費規定の改正、非課税の通勤手当、出張手当といったテーマを取り上げています。
出張の定義については、法律上の規定がないというのが話題になっていますね。
松本:はい。出張の定義は法律上明確に定められていないため、実務上は会社ごとの旅費規程に委ねられる部分があります。極端な話をすれば、「近所への外出も出張と言えば通るのでは」という解釈も成り立ってしまいます。
その曖昧さを利用して、出張手当を過度に大きく設定するような節税スキームをSNSで発信している人もいます。考え方そのものを一概に否定するつもりはありませんが、税務調査で否認された場合に、誰が責任を取るのかという問題があります。
AIの普及で誰もが手軽に情報を発信できる時代だからこそ、税理士の仕事の本質は、税の専門家として発言に責任を持つことだと考えています。無責任な情報発信には疑問を感じますし、そういった視点からの発信も行っています。
配信における今後の展望についてもお聞かせください。
松本:YouTubeには大きな効果があると感じています。私たちの活動を認知してくださる方が多くいても、実際にお問い合わせや採用イベントへの参加といったアクションを起こす方は一部です。
ただ、毎日多くの方に動画を見ていただけるようになれば、その小さな行動の積み重ねが、確かな成果へと繋がっていきます。今後は、認知を実際の行動に繋げる精度をさらに高めていきたいです。動画やSNSでの発信は、単なる集客施策ではなく、デジタル資産だと捉えています。Webマーケティングの内製化も視野に入れながら、より一貫した発信体制を整えていく予定です。
これからYouTubeを始めたいと考えている税理士の方へ、アドバイスをお願いします。
松本:最初からこだわりすぎず、「とにかく投稿すること」が大切だと思います。いきなり高いクオリティを求めると、原稿作成や撮り直しなど、膨大な労力がかかってしまいます。慣れないうちは、カメラの前でうまく話せないこともあります。
だからこそ、多少うまくいかなくても、まずは続けることが重要です。動画コンテンツこそ、まさに「継続は力なり」です。
会計連で高める会計業界の魅力
一般社団法人 会計事務所連携協議会(以下、会計連)の理事も務められていますが、会計連の理念や目的について教えてください。
松本:一番の目的は、会計業界を盛り上げて魅力ある業界にしていくこと、そして地域貢献に繋げていくことです。会計事務所の仕事は、非常に崇高なものだと自負しています。中小企業の経営者と深く関わる中で、単なる数字だけではなく、企業の経営状況や経営者の考え方、ご家族の状況まで含めた非常に貴重な情報に触れています。
さらに、会社設立から事業承継、相続まで、いわば「ゆりかごから墓場まで」長く伴走できる仕事です。ここまで経営者の人生に深く関わり続けられる士業は、他にはそう多くないと思います。

会計業界の価値をより高めていく上で、何が必要だと思われますか。
松本:私たちが持つ顧客情報をしっかり価値化していくことだと思います。
現在、顧客データは会計ソフトやスプレッドシート、kintoneなど各所に分散しており、本来持っている価値を十分に活かし切れていません。こうした情報を一元管理し、テクノロジーも活用していくことで、より付加価値の高い支援ができるようになります。
単純な作業部分は効率化し、人にしかできない支援へ時間を使っていくことが重要です。会計業界はこれまでも、そろばんから電卓、パソコン、クラウドへと時代に合わせ変化に対応してきました。「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るのでもなく、唯一、生き残る者は変化できる者である」という言葉がありますが、現状に満足せず、新しい技術を積極的に活用していく姿勢が求められると考えています。
人材の確保という面では、どのような取り組みを進めるべきだと感じていますか。
松本:会計事務所で働く人たちの賃金が上がり、魅力ある業種になっていくことが重要だと思います。
当社では、その一環として、給与水準のオープン化を始めています。個人ごとの金額ではなく、等級ごとの平均年収や最大年収をリクルートサイトでリアルな数字として公開しています。
会計業界の中だけで比較するのではなく、一般企業も含めた市場水準を意識していかなければ、優秀な人材は業界外へ流れてしまいます。
会計連に参画されていて、良かったと感じる点はありますか。
松本:会計連には大規模な会計事務所が多く参画しているので、各事務所の成功事例だけでなく、失敗事例も含めて本音の話を聞けることです。自分たちだけで事業をしていると、ある程度うまくいった段階で満足してしまうこともあります。しかし、それでは成長が止まってしまいます。
会計連の環境に身を置くことで、「もっとやらなければ」という良い刺激を常に受けられる点に、大きな価値を感じています。
働き方や人材確保など、業界全体で課題意識を共有していくことも重要ですね。
松本:本当にそう思います。大規模な事務所もあれば、お一人で運営している事務所もありますが、規模の大小に関係なく、人を雇用している以上は経営者としての責任があります。小規模事務所であっても、そこで働くスタッフの人生やキャリアに大きな影響を与える立場であることに変わりはありません。採用や働き方、待遇も含めて、業界全体でより良い環境を作っていく必要があると考えています。

松本グループの次なる展望
最後に、松本グループとしての今後の目標や展望について教えてください。
松本:現在、グループ全体で約20億円の売上がありますが、まずは着実に30億円規模を目指していきます。規模が拡大すればそれだけ人材が増え、次世代がマネジメント経験を積める環境が生まれ、対応できる業務の幅も広がります。そして何より、働くスタッフの賃金をより引き上げられる好循環にも繋がります。
決して足を止めることなく、組織として常に成長を続けていきたいと考えています。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
参加者プロフィール
- 松本 崇宏 氏
- 税理士法人松本 代表税理士
税理士事務所、法律特許事務所勤務を経て、2006年に松本税務会計事務所を開業。現在は松本グループの代表として、税理士法人、弁護士法人、社会保険労務士法人などを展開するほか、YouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営し、税務に関する情報発信も行っている。2011年には「次世代会計業界研究会」を創設し、全国の成長事務所との知見共有を主導する。2024年からは「一般社団法人 会計事務所連携協議会(通称:会計連)」の発起人・広報活動研究委員として、業界全体の発展に向けた取り組みにも力を入れている。
企業情報
- 項目
- 詳細
- 企業名
- 税理士法人松本(松本グループ)
- 事業内容
- 税務調査対応・確定申告・顧問税理士サービス。国税OBを含む約220名体制で年間約200件の税務調査に対応。YouTubeチャンネルによる情報発信も展開
- 拠点
- 渋谷(本店)・新宿・錦糸町・横浜・柏・大阪 計6拠点















